仕事人コラム

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お屋敷設計監理奮闘記

15年前位に高級住宅の設計監理業務を受託したときの話です。当初は私の担当課の仕事ではなかったのですが、他の課から異動してきた担当者Aが持ち込んできた仕事でした。担当者Aが異動してきてまもなく設計完了したので挨拶に伺ったところ、お客様(奥様)は設計図を見るなり「このような洋風の家の設計を依頼していませんよ。」と強い口調で不満をぶつけてきました。担当者Aはすっかり自信をなくしてしまい、私が担当せざるを得なくなってしまいました。その後、設計を0から再スタートしたわけですが、奥様との打合せ(会話)がどうしてもうまくいきません。お客様と私の生活レベルや価値観の相違がある上、図面を読めない奥様にいくら図面の説明をしても、理解してもらうことはもはや不可能かとまで思いました。

 

とにかく確認申請用の図面だけはなんとか承認をいただいたものの、これからどうやって意匠デザインを決めていこうか悩みました。室内の三次元パースを作成して検討資料にしようかと思い、見積を依頼したところ500万円かかるとのことで断念し、やっぱり自分が悩みながら、信頼をもらいながら決めていくしかないと決心しました。

 

延床面積で150坪くらいある家で、地下一階、地上2階、コンクリート造の天然スレート屋根、外壁は真っ白なライムストーンの豪邸です。各部屋の展開図を描きながら、部屋の室内パースを描いて、お客様に見てもらいながら確認していこうと思いました。パースには、床壁天井はもちろん、建具・木造作・造作家具・照明器具・冷暖房換気機器など、現れてくるものは全て描いていくことにしました。当初は、主要な部屋だけと思っていましたが、パースを使っての打合せだと理解しやすいらしく、要望も具体的に話していただけるので、浴室や廊下、ホール、化粧室、着付け室、書斎、寝室など気がついたら全部屋を描いていました。

 

後は仕上げ材のサンプルを見てもらって決めていけるかなと思っていました。しかし、そうは簡単にいきませんでした。「外壁の石を見に行きましょう。真っ白で柄や斑の全く無い石でなければいけません。」とおっしゃるのです。これは大変なことになった。現場所長と石工事業者と打合せして、原石からみせておかないと納得してもらうのは難しいという結論になりました。柄や斑の無い石などありえないからです。納得してもらえそうな原石が輸入されたという度に、お客様と同行で関が原に3回ほど出張して使う原石を決めましたが、製材する過程で柄や斑が出てきたものですから、その度に石材加工場に出向いてその石は北側の目立たないところに張ってくださいとか、石一枚一枚まで外壁のどこに貼るのかお客様と同行で決めるところまで行ってしまいました。
これらの現物主義による決定方法は、その後、衛生機器、水洗金具、照明、ドアハンドル丁番、ファブリックス、家具など全てにわたり、お客様は私と毎日のように都内のショールームを廻っては、納得できるものがないといって「他に何かないの?」と私を悩ませつづけました。

 

最後は庭園です。これまで住んでいた家の外構と庭園設計も有名な建築家に依頼しただけのことはあり、庭園とくに樹木に対するこだわりは尋常なものではありません。私も、庭園は私どもが紹介する専門業者にお願いしてください。と逃げようとしたのですが、そうはいきませんでした。庭園業者が所有する山があり、そこに樹木を見に行くからついてきなさい、ということになりました。敷地の入口にある門から玄関に至るアプローチに植える桜は、この家の景観の重要な要素であることは間違いありません。山の中を駆けずり回って候補となる桜を何本か決め、実際に現場に入れて植えてみることになりました。現場に持ってくると、山で採寸したにもかかわらずバランスが悪く、その後何回か山へ行かざるを得ませんでした。

 

竣工引渡以降、お客様からは全く連絡がなく、不都合があるはずだと思い担当者Aと一ヶ月位経ったときに訪問しました。奥様は満面の笑みで私たちを迎えてくれました。しかも担当者Aに花束まで用意して。

 

建装部・企画設計室 菅原 健二