仕事人コラム

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2011年12月アーカイブ

最近の厳しい経営環境を受けて宿泊施設では、新たな投資が難しい状況で、既存のハードのままで商品力の強化を図ることが必要となっている。
商品力の強化を図るためのポイントは、まず、館内外の清掃など基本的な衛生管理を徹底すること。次に、眺望、温泉など独自の強みを明確化してアピールすること。3つめは、お客さまとのコミュニケーションを強化することだ。当たり前に言われることだがちゃんとできているところは意外に少ない。


他にも、客室の備品などで商品力強化は可能だ。例えば、数種の枕のチョイスや小さい子ども用の昼寝セットの用意など、その宿に泊まるお客さまの期待に合致したサービスを提供すれば、費用負担も比較的少なく、お客さま満足度を高めることできる。
さらに、滞在において付加価値を左右する料理やスタッフの心地よい接遇などは、商品力強化を図る重要な要素で、絶え間なくブラッシュアップすることを常にお客さまから求められている。


このようにさまざまな商品力強化の方法があるが、いずれにも生かしたいのが、先ほど触れたお客さまとのコミュニケーション、すなわち会話を充実させるということだ。そのきっかけにぜひ取り入れたいのが「二十四節気」だ。 
二十四節気とは、1年を24等分し、季節をさらに細かく示す基準として設けた日を個別の呼び名で表現したもの。例えば、これからなら立冬11月7日、小雪11月22日、大雪12月7日、冬至12月21日などがある。また、季節の変わり目を八節(冬至・夏至の二至、春分・秋分の二分と立春、立夏、立秋、立冬)と呼び、子供に馴染みのある節句は、人日、桃、端午、七夕、菊と5つあるので五節句。他にも雑節(節分、彼岸、八十八夜、入梅、半夏生、二百十日など18の季節がうつろう節目)がある。


この夏に宿泊した地方都市のビジネスホテルでも、客室に短冊を2、3枚置き、その短冊を飾りつける笹竹をロビーに設置する七夕イベントを催していた。旅館でも、秋は、すすき、団子など十五夜の装飾が一般的だが、これも二十四節気の発想だ。いずれも顧客との会話が弾むこととなる。

 

このように二十四節気は、身近であっても家庭ではそれと意識する機会が本当に減っている。せめて、伝統文化を守り続けることを期待された旅館くらいは、役割として二十四節気をお客さまとの会話に生かす発想を持ち続けてもらいたい。古くて新しい取り組みであり、費用負担も少なく独自性を出せるのも魅力である。

 

 

 

 


(観光経済新聞2011年11月5日掲載)

企画設計室 秋山 光

普段、街中で和服を着ている人を見かけることがほとんどなくなり、正月や成人式、卒業式などの特別な服装となってしまった。同じ街中で目にする大手ハンバーガーチェーンは、厳しい状況の外食産業でもひとり勝ちと言われる食の西洋化の代表例であろう。一方で、個人の住まいは、フローリングが一般的となり、和室よりも洋室が主となってしまった。

 

 

ところが、このように衣食住の西洋化が進むなか、今も昔も変わらない日本人的な行動パターンがある。それは、家に帰ると玄関で「靴を脱ぐ」行為である。
どこの家でも当たり前のように玄関で靴を脱ぎ、スリッパ、または素足で私的な生活を過ごす。言わば靴の着脱によって公私の切り替えを行っているのである。この行為は、いくら日本人の生活に西洋化が浸透、定着したとしても、変わらずに存続していくだろう。


時代劇でたまに目にする光景だが、旅籠では玄関で旅人の足を洗ってから素足で館内に上げていた。
しかしながら、現代の旅館では、ホテルのように靴を履いたまま客室に案内する形式が主流だ。部屋で浴衣に着替えスリッパに履き替えて館内で過ごすことになるが、素足になっても先程土足で歩いた床なのでいま一つくつろいだ気にならない。素足になることで公私の切り替えができるととらえるなら、「くつろぎ」がテーマの宿にとってこの行為の提供はこだわるべき重要な点に思えてならない。


また、素足となると床材も限定されるが、一般的には畳や板敷きで竹タイルや籐マット、イグサカーペットというのもある。板敷きの場合には、清掃などのメンテナンスが容易だが、冬場の冷たさを解消するため床暖房にしたり足袋を用意したりする必要がある。
加えてくつろぎ効果と共に、素足の場合は別のメリットもある。防汚効果である。従業員も素足で歩くので汚れを気にして自ら注意をするようになり汚れやゴミが少なくなるのである。 
さらに、お客さまにとっては、館内どこでも靴やスリッパの履替えが不要(トイレは除く)でわずらわしさがなくなり開放的になるという効果も期待できる。


ただし、ここで一番の課題は玄関で預かる靴の整理だ。収容の少ない旅館ならともかく、大型旅館となると下足番が必要となり、チェックアウトが重なると玄関が混雑する恐れがある。
日本のホテルも客室に玄関を設け、室内を素足で過ごせるようにしたらと常々感じる。特に、ビジネスホテルならその効果は大きい。なぜなら、スリッパが常備されていても、風呂上がりや寝起きは面倒で素足で歩いてしまう人は私だけではないと思うからだ。

 

 

 


(観光経済新聞2011年10月22日掲載)

企画設計室 高橋 慎一郎

施設の商品力強化の観点においては、客室面積の拡大、露天風呂の導入ほか、水周りのグレードアップ、リビングの拡充整備、ベッドの導入、空調・空気清浄・除湿・加湿機能の拡充、AV機能整備といった主に客室ハード面の強化、充実をうたうケースが多い。一方、ロケーション、自然植生、昼夜の温度差、湿度など施設を巡る環境を生かし個性、特性として訴求している事例は多くない。


旅の主な目的として、地域の自然、名所などの「見物や行楽」が30%と「慰安」に次いで大きなシェアを占めている (10年度日本観光協会調べ) 。地域の自然環境や清涼な大気も大きな観光資源であろう。施設のハード面にウエートが置かれ、施設を取り巻く環境や自然資源の整備、商品としての景色の創造や活用がやや後回しになっていたのではなかろうか。


元来、多くの旅館は、その地域の風土が育んだ建築文化の集大成とも言える建物であり、さらに地域の植生を生かして庭園を造り、取り巻く自然を借景とする、環境と一体となった建物であったと思う。近年、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造が主流となり、箱の中の空調性能が向上するにつれ、地域の自然環境に関係なく調整された空間に滞在することが容易となり、その土地の大気、夜気、あるいは朝の冷気に触れる場が少なくなってきた。


避暑地の高原リゾートでも、避寒地のリゾートでも年間わずか10日に満たない冷暖房のための空調機が必需品となっている。装備されている機能は使うのが当たり前で、外気の方が心地良い季節であろうと窓は遮へいし、空調機はフル稼働することとなる。施設全体にもっと外気を取り入れ自然環境に触れる場の提供が必要ではないか。日中の空気と異なり、地方、あるいはリゾート地の朝夕の気温の変化、香り、祭囃子、せせらぎや、木の葉の揺れる音など楽しみは多い。環境を生かす工夫に満ちた商品化により顧客満足度の向上、環境負荷の軽減、損益構造の改善と"一石三鳥"も可能である。


外気に触れる施設として例えば、開放的な食事処を造ってみてはいかがか。その土地ならではの味覚が並ぶ食卓で、その食文化を育んできた自然環境にもっと身近に触れられればより一層食事が楽しくなる。もちろん悪天候時の代替会場の確保も必要だが。


信州のある旅館で白銀の朝、冴えた空気の廊下を渡り、食事処の部屋に入った。その赤々と熾された火鉢の暖かさの中で戴いた朝餉は今でも忘れられない。こういう体験こそ旅に求めていることではないだろうか。

 

 

 

(観光経済新聞2011年10月15日掲載)

企画設計室 竹原 和利